安倍首相、「敵基地攻撃能力保有」を柱とする国家安全保障戦略の大転換を米国に通知し辞任

「潰瘍性大腸炎」で首相辞任を表明した安倍晋三首相が11日、敵基地攻撃保有能力を「必要」とする「談話」の内容をを米国に通告したうえで「談話」を発表した。中国の精密中距離弾道ミサイル開発・ミサイル発射基地の完備に大幅に遅れを取り、必至になって巻き返しを図っている米国の国際戦略の意向に沿ったものだ。談話と言えども「米中新冷戦」体制を築きつつある米国に通知したわけだから、後継政権への政治的影響力は強いと考えられる。敵基地攻撃は先制攻撃を禁じた国際法に違反し、日本国憲法を破壊する暴挙だ。野党側は総選挙で徹底的に追及すべきだ。

◎追伸:12日の新型コロナ感染者数は、東京都で10日以来200人を超える222人。死亡者は2人、都基準の重症者は1人減って23人。20代〜30代の若者の合計は116人でそれ以外の年代は52.3%。3日前のPCR検査数は報道されなくなった(発表されなくなった)ようだ。PCR検査検査人数と陽性率が最重要数値。国内では午後21時30分ころの時点で648人感染確認、 13人の死亡者が確認された。今月10日には速報値で1日に1万8909件のPCR検査が行われたため、推測瞬間陽性率は、3.4%。

まず、朝日新聞は11日付1面で「談話」は出したが、結論は新政権に委ねると敵基地攻撃論の閣議決定はありえないという立場(https://digital.asahi.com/articles/DA3S14619645.html?iref=pc_ss_date)。これに対して、東京新聞は1面、2面を使って報道、米国が対中包囲網を形成する「米中新冷戦」時代に突入していることを踏まえ、次期政権に「安保政策転換促す」との立場だ。サイト管理者(筆者)は朝日新聞の楽観的な報道よりは、東京新聞の深刻な報道が真実に近いと判断する。なお、敵基地攻撃論については、本サイトの次の投稿記事を参照して下さい。

それにしても、難病の「潰瘍性大腸炎」で辞任したはずの安倍首相はいやに元気が良い。朝日デジタルが2020年9月11日 23時33分で公開した「安倍首相、約1カ月ぶり夜の会食 コース完食しワインも」と題する記事では、安倍首相は7月30日、現在の総裁選候補で首相から裏切られた岸田文雄政調会長(保守本流とされる宏池会を引き継いだ岸田派の会長でもある)と会食を行ったが、それ以来の会食だ。「会食は午後6時半すぎから始まり、約2時間で終わった。谷口参与によると、首相はコース料理を完食し、ワインも口にしていたという」。

本来なら、麻生太郎副首相兼財務相を自民党総裁選挙のための首相臨時代理に立て、自らは慶応大学附属病院の指示に従って、治療を続け。静養をしているのが当然と思われるが、なお政権運営に余念がない。一番の問題は、8月28日夕刻の辞任会見で、医師団の診断発表がなかったことだ。首相が病気で辞任する際には、医師団の診断説明があるというのが原則だ。

その例として、石橋湛山の病気辞任がある。石橋の前の首相であった鳩山一郎首相(当時、民主党時代の初代首相で、東アジア共同体研究所の鳩山由紀夫理事長の祖父)は1956年(昭和31年)10月19日に、日本とソビエト連邦と日ソ共同宣言により国交正常化した(この時、米国が領土問題を持ち出し、日ソ平和条約の締結を妨害したことが元外務省情報局長で現在、東アジア共同体研究所の孫崎享所長らの研究により明らかになっている=孫崎享著「戦後史の正体168頁〜174頁」=)。

その目的は、①国際法的にはソ連がサンフランシスコ講和条約への署名を拒否していたため、ソ連との戦争が継続状態になっていた②ソ連の捕虜になっていた日本の軍人・軍属を帰国させる③ソ連が国連の安全保障理事会で拒否権を持っていたため、日ソ間に国交がなければ、国連およびその他の国際機関への加盟が出来なかったーことにあった。しかし、病を顧みずソ連に行ったことと、米国に対米依存脱却姿勢を危険視されたことで、「日ソ国交回復」を花道に、首相の座を辞任する決意を固め、同年12月に退陣。その後、自民党の総裁選の第二回投票で「対米従属路線」を採る岸信介を破り、石橋湛山が首相になった。

石橋湛山首相は岸信介を副首相に置きながらも、池田勇人を大蔵大臣にして積極財政を打ち出すなど日本経済の復興に取り組むとともに全国を遊説したが、帰京後の1957年1月25日、帰京した直後に自宅の風呂場で倒れた。軽い脳卒中で医師団から2か月の絶対安静が必要との医師の診断を受けた。その間は副総理の岸が首相の代行を務めたが、予算審議の重要な時期になっていたこともあり、石橋は「私の政治的良心に従う(高知県出身の濱口雄幸首相が暴漢に狙撃され、首相の任務が遂行できなくなった時に、東洋経済新報に辞任を求める論考を寄せた)」と、一度も所信表明演説を行うこともなく、潔く退陣した。その後、岸信介が首相になった。

不思議なことに、石橋は軽い後遺症が残ったものの、すぐに政治活動を再開できるようになった。この事件には、日本を反共の砦とするために首相には岸を望んでいた米国大統領ドワイト・D・アイゼンハワーの関与があったことが推測されている。

それはさておき、石橋の辞任には医師団の診断が明確に示されたことである。ところが、安倍首相の辞任には医師団の診断表明がない。第一次政権の時は2007年9月10日に第168回国会が開催され、安倍は所信表明演説の中で「職責を全うする」という趣旨の決意を表明したが、2007年9月12日午後2時に突然、「内閣総理大臣及び自由民主党総裁を辞する」と退陣を表明する記者会見を行った。持病の潰瘍性大腸炎が原因とされたが、Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E5%80%8D%E6%99%8B%E4%B8%89#%E4%BD%93%E8%AA%BF%E3%81%AE%E6%82%AA%E5%8C%96%E3%81%A8%E7%B7%8F%E8%BE%9E%E8%81%B7)によると、「慶應義塾大学病院の主治医によると、(17歳のときに発症したという)潰瘍性大腸炎の血液反応はなく、機能性胃腸障害(注:内視鏡などの検査ではっきりと目に見える病気がないのに(胃潰瘍や胃がんなどの器質的病気がないということ=http://www.do-yukai.com/medical/41.html=)胃の症状が出る病気のこと、ストレス性大腸炎)という検査結果であったという」。

この時期、デモクラシータイムスの時事問題鼎談番組(https://www.youtube.com/watch?v=oVbFL6JrA9I)によると、安倍首相(当時)は週刊文春から父・晋太郎からの3億円の相続税脱税疑惑が報じられていた。鼎談番組はその時のストレスが健康悪化説の原因であり、本当に「潰瘍性大腸炎」であったのか疑わしいとも指摘している。これは、先に述べたWikipediaの「機能性胃腸障害」との診断とも符合する。

いずれにしても、首相が病気を理由に辞任する時は、石橋湛山辞任時のように医師団の診断についての公式発表が普通であり、かつ最も重要だ。今回のデモクラシータイムスの鼎談番組でも主として河井克行・案里夫妻の公判をとても気にしていたととのことだ。

河井氏側に渡された破格の1億5000万円の自民党本部からの拠出問題である。普通は5000万円程度である。また、自民党広島県連側では溝手顕正参院議員(当時)を2019年の参院選に押すことで一致していたから、河井克行前法相が妻の案里氏を当選させるためには、広島県の地方自治体の首長や県市町村議会の議員ひとりひとりに現金を支給せざるを得なかったわけだが、彼らが現金を受け取った理由は河井氏の背後に、強い圧力を感じていたというのが納得できる理由だ。

これについては、敏腕検事だった郷原信郎弁護士も、「上記の推認のとおりだとすると、克行氏には、被告人質問での実刑判決を免れる『逆転の一手』がある。それは、安倍首相が、現金供与とその目的を認識し、容認していたこと、その実質的原資が、自民党本部からの選挙資金であることを、包み隠さず、真実を供述することである」(https://blogos.com/article/481076/?p=3)と指摘している。要するに、安倍首相は河井克行・案里夫妻の公判が自らに関係してくることを極度に恐れており、これによるストレスが体調異変の理由だというのである。

なお、郷原弁護士はでも、壁首相の体調悪化の原因と河井氏と関係が深かった菅官房長官の問題について、Youtubeでの動画(https://blogos.com/article/481076/?p=3など)でもたびたび触れている。

敵地攻撃論に固執する安倍首相
https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashikosuke/20200911-00197835/敵地攻撃論に固執する安倍首相()

医師団の公式発表がないという異常な状況のもとで「辞任発表記者会見」を無事終えたのだから、安倍首相も一応、安堵し、さらには大手メディアの世論調査で内閣支持率が異常に上昇したことから、安堵に拍車がかかったものと見られる。「時事放談」では今回の「安倍辞任演説」を一種の「上からのクーデター」と見ているが、その延長線上に今回の「敵地攻撃論」を柱とする国家安全保障政策の抜本変革を促す談話を、米国に通知したうえで公表したと見るのが正しいと思われる。なお、憲法71条では「前二条の場合(内閣不信任案の可決もしくは内閣総理大臣が欠けた場合)には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ」とあるがこれはこれまで、「職務は行政の継続に必要な事務処理にとどまり、新たな政策に取り組むべきではないというのが通説だ」(東京神殿12日付1面の西川伸一明治大学教授の見解)と報道している(東京新聞12日付1面)。

特に、「米中新冷戦」の最中に、敵地攻撃論の内容を米国に伝えた上で談話を発表したことは、強い政治的影響力を持つことになり、日本国憲法の精神から逸脱した行為だ。もっとも、日本国憲法の破壊が目的の安倍政権・軽症政権(菅政権)にとっては当然の行為だ。朝日新聞12日付1面ては、「政府は、安倍政権がめざしていた国家安全保障戦略(NSS)の改定については来年以降に先送りする方針。防衛計画の大綱(防衛大綱)、中期防衛力整備計画(中期防)は、予定通り年末に改定する方向だ」としている。

しかし、安倍政治を継承する菅政権の成立が不動のものになっている現状、国家安全保障戦略(NSS)の改定がなされる可能性も否定できない。むしろ、公明党の一部にも敵地攻撃論を容認する幹部が出てきており、菅氏は自民党の別道部隊である日本維新の会とのつながりも深い。むしろ、国家安全保障戦略(NSS)の改定がなされることも視野に入れ、野党側は「立憲平和主義」を対抗軸に置く必要がある。なお、玉木雄一郎氏が代表になった新「国民民主党」は、所属する前原誠司衆院議員が、立憲民主党に移籍した民主党政権時代の政権幹部の不祥事を、自らの責任を棚に上げ、政府系の産経新聞に垂れ流したことなどから、自公勢力の補完勢力であり、日本維新の会と合流する公算が極めて大きい。政権奪取を目標とする野党が「共闘」すべき政党ではない。

敵基地攻撃論の問題点
敵基地攻撃論の問題点(https://www.tokyo-np.co.jp/article/55031?rct=politics)

なお、敵基地香華論を柱とする改訂版国家安全保障戦略は、①先制攻撃に相当するから、国際法違反でありかつ日本国憲法違反の国防戦略である②中長期李トマホークやステルス戦闘機、高性能レーダーなどの軍事兵器の爆買いが必要であり、また、軍拡競争の拡大を招くことになるから、経済(財政)に大きな負担を与える③コロナ禍で日本経済が危機的状況になっている今日、議論さえ許されない代物ーでしかない。


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