「日本一新運動」の原点(255)ー消費税率10%への引き上げは国家破綻の道

日本一新の会・代表 平野 貞夫妙観

○ 消費税制度物語  (14) (最終回)
昨年12月4日のメルマガ242号から始めた『消費税制度物語』は、今回で終わることにしたい。直近の消費税問題は「10%」への税率アップである。世界経済の推移を考えると、アップすれば国民生活どころか、国の破綻への道になると思う。

(難航する消費税国会の召集問題)

消費税導入の税制改革を目的とした臨時国会の召集は、与野党の駆け引きがようやく始まった昭和63年7月、リクルート事件が発覚した。この事件はリクルートコスモス社関係の非公開株が、中曽根前首相、安倍自民党幹事長、宮澤蔵相秘書、竹下首相の元秘書、塚本民社党委員長秘書らに売買され、公開直前に売却して多大の利益を得た問題である。森喜朗元首相は約1億円の売却益を得たとも報じられた。捜査当局は株取引という名の政治献金や贈収賄疑惑とした。この事件は消費税国会の最大の障害物となるだけではなく、竹下対中曽根の権力闘争化し、翌年には竹下首相が退陣に追い込まれる。

社会・公明・共産の各党は、竹下政権を追及、消費税導入を阻止するため真相究明の臨時国会を短期間なら応じるとの主張となった。一方、自民党では臨時国会の召集すら慎重な意見が出るようになる。さらに野党の要求する減税先行などとても応じられないとなった。政府・自民党は難航する臨時国会の召集問題について、7月14日に首脳8者会議を開くことになる。8者会議では、野党が要求する昭和63年度減税を政府案から切り離し、臨時国会の冒頭で処理することで野党を説得する方針を決めた。ところがこれに大蔵省当局が全面的に抵抗した。その理由が「昭和63年減税と消費税法案は一体として審議しないと、法的に不都合が起こる」との理屈であった。

同日午後6時半、小沢官房副長官からの電話で「今夜、大蔵省の水野主税局長・総務課長・文書課長をキャピタルホテル207号室に呼んでいるので、『議事法規上、大蔵省の理屈は間違い』と説得してくれ」とのこと。午後9時から議論が始まった。主な論争は次の通り。

○小沢副長官 法規上、政府案と63減税を一括並立提出しなければならないのか。

○平野 議事法上、二つ一体化の理論はできない。

○水野局長 政府案の減税は年末調整だ。63減税で9月からやるとすれば一体になる。

○平野 いずれも政治判断でやることで、法規上の理論ではない。野党を騙すことになる。

○小沢副長官 わかった。それで総理と大蔵大臣に納得してもらう。

○水野局長 減税と消費税を一体化しないと減税だけ食い逃げされる。同意しかねる。

○平野 4月の勉強会で、分離先行でないと野党は応じないと申したはず。ところで副長官、減税抜きの消費税関係法案の成立の見通しは・・。

○小沢副長官 ここまで譲れば、後は信義の問題だ。民社も公明も応じてくれる自信はある。

○水野局長 それでは消費税法案審議の見通しが立たない。

○平野 船を港から出すことが先だ。事実上竹下政権を代表する副長官が自信があると言っている。それを信用しないことは、竹下政権を信用しないことになる。

○水野局長 (しばらく考えて)わかりました。省に帰って報告します。

翌朝、主税局長の使者で二宮参事官が来訪。「昨夜の小沢副長官と主税局長の会合で、分離して残り本体を成立させる保証(見通し)があるかと詰めてくれたこと、局長は感激している」とのこと。同日竹下首相と宮澤大蔵大臣が閣議後に会談し、減税を分離先行させることで合意。午後の与野党幹事長・書記長会談で、臨時国会の召集日が7月19日と決まった。

(「消費税国会」の実態)

7月19日(火)、第113臨時国会が召集され、分離先行で減税総額約1兆3千億円の「昭和63年度分の所得税の臨時特例法案」が27日にまとまり、議員立法で衆議院可決。29日参議院で成立した。当日、政府は税率3%とする消費税を柱とした税制改革6法案を閣議決定し、国会に提出した。さらに竹下首相の所信表明が行われ、税制改革実現への決意が表明された。

8月5日から衆議院で予算委員会が開かれ、公明党と民社党の両党は税制改革を目指すことについては、政府自民党と共通した認識を示すようになる。しかし社会党と共産党がリクルート事件の徹底追求を主張し、公明・民社両党もその影響で真相究明先行を主張するようになる。野党は、リクルート関係者の証人喚問と資料要求を行い国会審議は8月末までストップした。リクルート事件は前代未聞のスキャンダルとなる。この事件が消費税関係法案の審議に大きな影響を与え、国会は紛糾する。

展開を要約すると消費税導入に社会党と共産党は強く反対した。民社党は反対ではあるが柔軟な態度であった。しかし独自で審議に参加することには抵抗があった。となると、公明党を説得して審議に参加させることが消費税導入の絶対条件であった。

小沢構想は福祉目的税化で、大蔵省が財政硬直になると猛反対した。仲裁に入った竹下首相が「福祉目的的税」という迷案を出した。小沢氏は福祉に関心の高い公明党=創価学会に政策提言をさせ、それを竹下内閣が取り入れて事実上の福祉目的税化しようとした。私に『人間的福祉社会の実現を目指して』とのレポートを書かせ、公明党がそれを参考にして「寝ったきり老人対策」や「ノーマライゼーションの採用」などの政策提言を行った。民社党は消費税執行の弾力的運営などを主張した。

消費税導入は両院に「税制問題調査特別委員会」を設置し審議が行われた。11月1日、衆議院の税制特別委員会で野党側と話し合いがつかないまま強行採決が行われた。しかし、本会議に上程する前に、公明・民社とそれぞれ修正の合意が行われた。同月16日の本会議は社会・共産両党が欠席したが、公明・民社両党は修正部分に賛成し可決した。

参議院の審議では、審議日数を確保するため、11月24日、34日間、12月28日までの会期を再延長した。11月27日、竹下首相はリクルート事件を踏まえ、「政治改革」を税制改革後の課題とする、と記者会見で表明した。野党は審議を拒否したが、リクルート事件調査を先行させることで正常化。ところが、宮澤大蔵大臣のリクルート事件の発言が問題化し、同月9日に辞任することになる。故前尾先生と宮澤氏と私の関係を知っている竹下・小沢両氏から辞任の説得を要望され、『国会職員で、こんなことまでするのか』と自分が嫌になったことを記憶している。

宮澤大臣の辞任で正常化した参議院は、12月24日消費税を柱とする税制改正関連法を成立させた。その日午後、私は渋谷区松寿町の前尾邸を訪ねた。故人となった恩師、前尾先生の遺言「消費税制度導入」を仏壇で報告したとき、思わず涙があふれた。

(消費税制度の「見直し」と「廃止」論議) 

消費税の導入や所得課税の大幅な減税をはじめとする税制の抜本改革は、21世紀に向かう日本にとって平和な福祉国家を建設するため、是非にも必要な改革であった。しかし、導入した「消費税制度」には、数々の重大な欠陥があった。竹下政権の課題は、消費税定着のために思い切った「見直し」と、リクルート問題に対する国民の批判をうけて「政治改革」に取り組むことであった。

年が明けて1月7日昭和天皇が崩御され、年号が平成となる。2月10日第114回常会の本格審議が始まる。4月1日から消費税が施行される中、リクルート事件で中曽根前首相の国会証人喚問をめぐって政局となる。同月24日竹下首相は総予算の成立を待って退陣することを表明し、6月24日に総辞職する。宇野宗佑氏が後継首相となるが、消費税導入と女性問題で7月23日の参議院選挙で自民党は大敗し、野党多数の逆転となった。

自民党政権の危機に登場したのが海部首相と小沢幹事長であった。「消費税の見直し」と「政治改革」の課題は、小沢幹事長が表で、私が裏で引き継ぐことになる。9月の臨時国会で参議院の社会・公明・連合・民社の4野党は「消費税廃止関連四法案」を提出した。海部首相は所信表明で「思い切った見直し」を訴えた。参議院四野党案は衆議院で審査未了となった。

平成2年1月24日、第117回常会冒頭、衆議院が解散し、2月18日の総選挙で自民党は勝利し政権を続ける。第118回特別国会の3月6日、政府は「消費税の見直し法案」を提出し、4月19日に野党4党は「消費税廃止関連四法案」を提出した。両院で本格的論議が行われたが、ねじれ国会で結論は出せない。結局、4野党法案は衆議院で否決政府案は参議院で廃案となった。消費税制度見直しに責任を持つ小沢自民党幹事長の発案で『税制問題等に関する両院合同協議会』が設置された。

この協議会の初代会長に小沢幹事長が就任、私が事務の責任者となった。専門者会議25回、協議会4回が開かれ、福祉教育関係の非課税化や、簡易課税制度などについて若干の見直しが行われた。基本的な福祉目的税化や、飲食料品の非課税化については合意できず、その後の協議でも見直しは実現しておらず、欠陥の消費税制度が続いている。

(国民に負担を求める税制のあり方)

消費税制度見直しの議論は、平成5年8月の非自民細川連立政権への政権交替などで低調となる。平成9年自社さ連立政権が消費税率を3%から5%に引き上げることになった。これが金融危機と重なり不況を深刻化させた。さらに平成24年、民主党政権は自・公両党の協力で「消費税率引き上げを柱とする社会保障・税一体改革関連法」を成立させた。民主党政権は、政権交替の総選挙での公約に反しての消費税率の2段階(8%と10%)引き上げであった。その後の政治と経済の混乱については、メルマガ250号などで記したので省略する。

財務省OBの自民党議員が、民主党政権を騙した消費税率引き上げは、国民に約束した社会保障の整備を崩壊させた。国民は、〝消費税で社会保障を充実させる〟という政治や行政の声を信用できない状態だ。税制に対する国民の信頼を回復することは、きわめて困難となった。
(終)

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