世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は現地時間の11日(日本時間12日午前2時)、新型コロナウイルスの感染拡大について、世界的な大流行を意味する「パンデミック」に分類され得ると述べた。米国の年末までの給与税免除政策の展開が不透明になったこともあり、ダウ平均は一時1600ドル暴落。パンデミック宣言の心理的影響は大きい。世界各国はこれまでの新自由(放任)主義政策の限界、はっきり言って誤りを認識し、財政政策を柱に政策を総動員する段階に入るべきだ。日本では、影の内閣を組織し、現在の政府に対案を示して、国民に公開すべきだ。
日本の政府=安倍晋三政権が3月10日、新型コロナウイルス感染症対策本部(本部長・安倍首相)で緊急対策第2弾を発表したが、財政措置は2019年度予備費2700億円を含む4000億円程度と、政策金融公庫を中心とした政府系金融機関の貸付枠の増加1兆6千億円程度しかない。
これでは、新型コロナ感染症対策はもちろん、世界諸国の経済活動の萎縮による経済悪化(景気後退)が進む中での日本国内の経済萎縮対策・経済安定策には全く足りない。既に投稿したように、対策本部を支える新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(12人中9人が、➀国立感染症研究所②東京大学医科学研究所③国立国際医療研究センター④東京慈恵会医科大学のカルテットの出身者で占められている)は、専門家の出身組織の利権を代弁・擁護するための組織と化している。このため、日本国内での感染者数は、朝日デジタルによると3月11日午後11時15分段階で1330人、うち死者22人だが、厚労省の感染確認者のうち重症または重篤患者は2割という公表値を信じるにしても、実際の感染者数はその5倍の6500人は存在すると考えられる。
これは、たびたび投稿しているように、PCR検査に検査障壁があるからだ。新型コロナウィルスに感染しているか否かを判定するためのPCR検査には、検査条件として➀風邪の症状や37.5°C以上の発熱が4日以上続いている(解熱剤を飲み続けなければならないときを含む)②強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある、ただし、高齢者や基礎疾患等のある方は、上の状態が2日程度続く場合-の症状が出ていることを付けている。このことが、事実上検査を妨害している。また、「帰国・接触相談センター」への相談とか、PCR検査機関が専門医療機関、地方自治体の衛生研究所など全国で1万1千ある医療関連機関のうち、高々860機関で独占されていることも問題だ。
特に、高齢者の死亡原因では老衰を除けば肺炎が第4位になっている現状、高齢者の風邪症状も含め、肺炎症状については診療内容の決定のためにも即時、PCR検査を行うべきだ。それが、2日間も待たなければならない。中には、死亡してから新型コロナウイルスに感染していることが判明したという恐るべき事実すら出ている。適切な治療さえ受けられずに、亡くなられたわけだ。
3月10日、参議院で開かれた予算委員会の新型コロナウィルス感染に対する参考人陳述の際、専門家会議副座長の独立行政法人地域医療機能推進機構の尾身茂理事長はこの点について、日本共産党の小池晃書記局長(参院議員)から追及を受け、しどろもどろの回答しかできなかった。小池書記局長は、PCR検査に検査を受けることを抑制するバリアー(障壁)が設けられていることとその撤廃を示唆したが、こうした声は真性野党議員の中からもっと上がらなくてはならない。参院議員には、医療機関出身の議員もいるはずだ。
パンデミック(ウイルス感染症の世界的流行)宣言がなされた段階では、世界各国、特に日本はPCR検査の事実上の「解禁」を行い、正確な実態を公表すべきだ。実態が分からない状態では、無症状ないしは軽症の感染者が持病のある高齢者に感染させ、事態を悪化させることは確実だ。
政府=安倍政権が、休業補償の明確な措置も採らないままに、小中高校の一斉休校要請や大きなイベント・大会の自粛を要請したのも、実はこうした背景があることを承知しているからであろう。これは、感染者数を少く見せかけることで、東京オリンピック、パラリンピックを何としても開催したいという思惑があるからだ。しかし、日本オリンピック組織委員会(JOC)の委員で電通出身の高橋治之理事は「コロナウイルスは世界的な問題。日本が大丈夫ならそれで開催できるわけではない」として、開催を1年〜2年遅らせるべきだとの主張をするなど、ホンネは開催に慎重な委員も出てきた。高橋理事は、JOCを牛耳る森喜郎元首相に怒られ発言を撤回したが、ホンネのところは変わらないだろう。
植草一秀氏も指摘しているように、政府=安倍政権が、現状の自粛要請の維持を続けるか否かの判断を10日間ほど延長するとしたのは、3月26日から予定されている聖火リレーに合わせたものだ。しかし、原子力非常事態宣言が3.11から9年を過ぎたのにいまだに解除されていない中、さらに、WHOが「新型コロナウイルスパンデミック宣言」を行ったのに、最大の利権事業と化しているオリンピックの開催の是非について検討すらしないというのはまさに、人命よりカネが大事だということの公言たる表明に他ならない。
※追伸 東京オリンピックについては橋本聖子五輪相や小池百合子東京都知事らが12日、開催に影響はないなどの発言をせざるを得ない状況に追い込まれてきた。
また、日本国内での国民の就業、就学活動の自粛を要請するには、休業補償を公平かつ完全に実施する必要があるほか、2018年10月に景気後退入りしたと見られる日本の景気のさらなる悪化を防ぐため、思い切った休業補償措置を含む財政政策を柱とした2020年度第一次補正予算編成に着手していなければならない。今の政府=安倍政権にはその意思はないだろう。あったとしても、パフォーマンスを見せるにとどまる。れいわ新選組、日本共産党、国士の元職、現職の国会議員が参集して、影の内閣(シャドウ・キャビネット)を作り、現政権の対抗策を打ち出すべき時に来ている。
※追記
経済情勢も悪化の一途を辿っている。11日のニューヨーク株式市場は、世界保健機構(WHO)が新型コロナウイルス感染症の世界的拡大で、「緊急事態宣言」を正式に発令せざるを得なくなったことを受けて、世界的な景気後退につながりかねないとの警戒感が一段と強まり、主要企業でつくるダウ工業株30種平均が前日1464・94ドル(5・86%)暴落の万3553・22ドルで終了した。
これを受けて、東京株式市場でも朝方の取引開始後から前日からの下げ幅が加速し、一時1000円を超え、終値はやや反発したものの、前日比終値は前日比856円43銭安と急落し、1万8559円63銭で引けた。終値が1万9000円を下回るのは2017年4月以来、2年11カ月ぶり。取引直前に安倍首相と日銀の黒田東彦総裁が会談したことが伝えられて小反発したが、金融政策は既に効果なしの状態に来ている。
世界的な株価同時暴落に関連して重要なのは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による公的年金保険料積立金の投資の大失敗が予想されることである。これに関しては植草一秀氏のメールマガジン第2575号をご覧いただきたいが、既に生じている運用の失敗(債権中心の投資を株式、外貨建て証券などへの投資の比率を高めたことによる損失拡大)がさらに拡大する恐れが強い。
2019年第4四半期の実質経済成長率は、10月の消費税増税強行のために速報値では年率換算6.3%落ち込みだったが、改定値ではさらに悪化し同7.1%の落ち込みになった。これに、新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の超萎縮が加わることで、今年第1四半期の実質経済成長率の落ち込み幅もかなりのものになることが予想される。米国では2カ月連続実質経済成長率がマイナスになれば景気後退局面入りと見なすが日本の場合、内閣府がかなり遅れて景気対策発動には役に立たない時期に景気回復・後退判断を公表するが、植草一秀氏などの経済専門家によると、日本の景気は既に2018年10月の段階から後退局面に入ったとの見方が有力だ。
こうした中での消費税増税強行、「新型コロナ感染拡大防止策=新型コロナ感染者数抑制策」の失敗で景気の悪化は極めて厳しいものになることを予想しておく必要がある。2020年度予算は既に成立が決まっているから、第一次補正予算案の編成に取り掛かっていなければおかしい状況である。