日本時間で11月15日、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)加盟交渉国の間でRCEPの協定がまとまり、参加15カ国が協定に署名した(日本は梶山弘志経済産業相)。交渉参加各国の国会(議会)での批准を得て発効することになる。日本は、中国の存在感が強いRCEPと日米FTAの間で股裂き状態になるが、日本の真の独立を妨げてきた対米隷属外交から脱却する「テコ」として活用を図るべきだ。時代は欧米文明圏から東アジア文明圏に向かった歴史的な転換点に来ている。
本日11月16日月曜日の新型コロナ感染状況は、東京都では午後15時の速報値で新規感染確認者は1週間前の9日月曜日の157人より23人多い183人(https://www.fnn.jp/articles/-/61484)だった。毎週月曜日は新規感染者が受けたPCR検査数が最も少ないことから、感染者数が最も少ない曜日だがやはり、このところ前週に比べて増加しており、月曜日としては8月10日の197人以来、最も多くなった。東京都基準の重症者は前日比2人増えて40人になった。
東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は309.1人、PCR検査人数は5107.6人だから、陽性率は6.05%。東京都独自の計算方式でも5.5%。感染者のうち感染経路不明率は56..91%だった。
全国では午後23時58分の時点で950人の新規感染者と8人の死亡者が確認されている。全国各都道府県の状況はこちらのサイトで示されている。
東洋ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、11月15日時点の実効再生産数は全国が前日比0.01人減少して1.38人、東京都では前日比0.02人減少の1.35人となっている。
内閣府が16日発表した2020年第4・四半期の実質国内総生産の伸び率は経済活動を再開したことから前期比5.0%増、年率換算で21.4%増になった。全国民に対する定額給付金10万円の支給で家計最終消費支出が前期比4.7%増と前期のマイナス8.5%から一転、プラスに転じたことが大きい。ただし、設備投資は前期の4.5%減から同じく3.4%減になっており、企業が先行きの景気見通しに悲観的になっていることをうかがわせる。輸出については、中国がコロナの克服に取りあえずは成功し、経済活動の再開が可能になり対中輸出が増えたことや、欧米諸国で経済活動の規制を緩和したことで、自動車などの輸出製品が増加(輸出に相当するインバウンド=外国人観光客=は消失)した一方、輸入は前期比9.8%も減少したため、内需の弱さが改めて浮き彫りになった。このトリックで、純輸出が成長率に占める寄与度は2.9%ポイントと成長率の60%を占めた。これに対して、内需の寄与度は2.1%ポイントの40%程度。
実質国内総生産の実額を第1・四半期から第3・四半期まで列挙すると、526兆5917億円、483兆6417億円、507兆6157億円となっており、経済活動優先で取り戻したのは前期に減った分の半分程度で、回復の勢いは力強さを欠いている(https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2020/qe203/pdf/jikei_1.pdf)。
欧米ではコロナ第二波が襲来しており、日本も第三波の襲来が予想されていることから、第4・四半期は再び厳しくなりそうだ。「ウィズコロナ」対策の限界を示したものと言える。
RCEPの交渉立ち上げは2012年。もともとは、東アジア諸国での経済連携協定では中国が主導していたASEAN10カ国(インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、ラオス、カンボジア、ブルネイ、ミャンマー)+日米韓3カ国による東アジア自由貿易協定(EAFTA)と中国の覇権主義を警戒して、日本が推進していたインド、オーストラリア、ニュージーランドの民主主義的価値観を基盤とする3カ国を加えたASEAN+6カ国の東アジア包括的経済連携(CEPEA)が並行していた。
しかし、両構想は加盟交渉国がかなり相乗りをしていることから民主党政権時代の2011年8月、日中両国政府の間で➀参加国の違いの問題は棚上げする②13カ国とインドを加えた16カ国のいずれかで東アジア地域包括的連携協定を推進するーことで合意。結局、2012年までに16か国で進めることが合意され、アジアにおける広域地域経済連携構想はインドを加えた16か国で協定の内容を検討することになった。
当初は、協定を煮詰めるための参加国の交渉が遅々として進まなかった。しかし、同時期に環太平洋パートナーシップ(TPP、参加対象国12カ国)が持ち上がり、2010年に横浜市のパシフィコ横浜で11月13日 から 14日まで開かれたアジア太平洋会議(APEC)首脳会議で、時の菅直人首相が米国と日本を含む大TPP構想が打ち出された。日本が民主党政権、さらに小沢一郎衆院議員を排斥するために野田佳彦政権が「大政奉還=自爆解散・総選挙」を行ったことから樹立された自公政権(安倍晋三政権)も前のめりになった(自民党は野党時代に国益を損なうTPPに反対していた)こともあり、RCEP構想は影を潜めた存在になった。
ところが、2016年の米大統領選挙で、米国の中枢を握る軍産複合体や国家・国民の利益を考えず自らの利益のみを優先する多国籍企業(これらは、東部エスタブリッシュメントとも呼ばれる)に対する米国民の不満が高まる中、米国民の不満に応えるかに見えたドナルド・トランプ氏が当選。2017年1月20日の大統領就任後、TPPからの離脱を宣言。TPPは最初は米国が参加しなければ発効できなかったが、時の安倍晋三政権が米国が参加しなくても発効できるTPP11を主導して成立させた。しかし、米国抜きのTPP11はあまり意味がない。トランプ政権はTPPの代わりに、日本に対して日米FTAの完全な形での締結を強制しようとしてきた。
日本側が外務省を中心に、日米FTAは単なる「物品貿易協定」に過ぎないと言ってはいるが、現在結ばれている物品貿易協定では、対米自動車関税の引き下げ(目標は関税率のゼロ%近辺への引き下げ)などの成果は全く得られず、米国農産物の対日輸出を拡大するための貿易協定にしかならなかった。日米FTAでは今後、さらにTPPの次元を超えて、種苗法の改正や規制緩和・改革と称する水道事業その他の地方自治体が行ってきたサービス提供事業の民営化、投資家と国家との紛争を解決するISDS(Investor-State Dispute Settlement)条項など、バイデン氏が大統領に就任したあかつきには、米系多国籍企業に最大限の利益をもたらす要求が日本に対して強制される見込みだ。下図は、朝日デジタルによる(https://digital.asahi.com/articles/ASNCH7JN8NCHULFA00K.html)。
こうした中で、経済産業省を中心に東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が見直され、今回の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)加盟交渉国の間でRCEPの協定がまとめられることになった。なお、インドは協定に署名しなかった。これは、➀中印紛争の長い歴史がある②インドの対中貿易赤字が大きいーなどの理由による。ただし、オブザーバーとしての参加は認められている。
RCEPは自由貿易協定の中では、関税率の削減・撤廃は段階的に行うことになっている。朝日新聞11月15日1面によると、日本製品の関税は91.5%が撤廃される。また、上図は関税撤廃・関税率削減の具体的な内容の一部だ(https://digital.asahi.com/articles/DA3S14696237.html?iref=pc_ss_date)。
なお、最近、中国のコロナ対策や科学技術の高度な発展、購買力平価から見た場合は世界最大の経済大国になっており、日本の貿易相手国としても米国をしのぐ世界第1位になっていることも見逃せない(https://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/data/y4.pdf)。マウスでクリックすると拡大。
また、科学・技術の発展と経済力の強化から中長距離弾道ミサイルの性能の向上などがあることは、日米安保条約を「張り子の虎」にする可能性のものであり、米国の軍産複合体に基づいて、「対中軍事包囲網」に加わることも得策ではない。
外務省はRCEPについて、次のように資料を提供している(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/j-eacepia/index.html)。しかし、協定書に署名した担当大臣が、梶山弘志経済産業相であったことから明らかなように、日本の経済・産業の担当官庁である経済産業省が推進してきたことは間違いない。
東アジア地域包括的経済連携(RCEP)では次のような協定が取り組まれている(https://liberal-arts-guide.com/rcep/)。
- 冒頭・一般的定義
- 物品貿易
- 原産地規則(品目別規則附属書を含む)
- 税関手続・貿易円滑化
- 衛生植物検疫措置
- 貿易救済
- サービス貿易(金融サービス,電気通信サービス,自由職業サービス附属書を含む)
- 任意規格・強制規格・適合性評価手続
- 自然人の移動
- 投資
- 知的財産
- 電子商取引
- 競争
- 中小企業
- 経済技術協力
- 政府調達
- 一般規定・例外
- 制度的事項
- 紛争解決
- 最終規定
これらが、協定の主な項目である。東アジア諸国はおおむね、赤松要の提唱した「日本型直接投資」によって製造技術が標準化された産業・企業から直接投資を受け入れ、産業の発展・高度化に成功している。また、一部の国を除いて、東アジア諸国はコロナ型ウイルスに対する交差免疫を持っている。大規模なPCR検査を行い、無症状感染者の発見と保護・隔離・重症化を防ぐための医療措置を行えば、抗ウイルス薬の開発とともに欧米諸国よりは早くコロナ禍に打ち勝つ公算も大きい。米国の軍産複合体が背景になった対中国包囲網融資国連合への積極参加や敵基地攻撃論の具体化、イージス・アショアの代わりに開発を迫られている多額の費用がかかる洋上型イージス艦の開発などは不要である。コロナ対策に回すべきだ。
中国共の共産党による独裁的な性格(基本的人権の無視)は、ノルウエーの社会学者・ヨハン・ガルトゥング(Johan Galtung、1930年10月24日 – )が提起した戦争のない状態を平和と捉える「消極的平和」に対し、貧困、抑圧、差別など構造的暴力のない状態を「積極的平和」とする概念を深く掘り下げ、日本国憲法の理念に沿った、言葉の真の意味での「積極的平和外交」を展開していく中で、解決してゆくべきだ。