黒川訓告決着、政府と検察馴れ合いか−河井夫妻逮捕実行と「桜」の刑事告発受理・起訴焦点(一部訂正)

黒川東京高検検事長(昨日の5月22日午前まで)は辞任という形になったが、旧態依然たる検察のままのことしか行わず、政府と検察庁のなれ合いでこのまま終わるか、それとも、稲田伸夫検事総長が腹のすわった検察官で河井克行法相と河井案里議員の公職選挙法違反を表沙汰にすることから初めて政府=安倍晋三政権の不正を暴くか、本当の戦いはこれからだ。

黒川弘務東京高検検事長は昨日22日午前、処罰とは言えない「訓告」処分のうえ天皇から認証官の役を解かれて、正式に辞任した。しかし、戦後の検察は公正な捜査と立件、逮捕、起訴を行ってきたわけではない。数々の冤罪を犯し、その償いもしていない。また、裁判所も上級審に移るにつれて、検察との癒着の度合いがひどくなるというのが通例である。判事・検事交流などは、到底理解できない。戦後の検察の悪事の最たるものが、冤罪としか言いようがない民主党の小沢衆院議員・幹事長(当時)に対する「陸山会」冤罪事件である。

これについては、自由党時代から小沢氏と行動を共にしている国民民主党のもりゆう子参議院議員が著した「検察の罠」に詳しい。最終章に、黒川法務省官房長(当時)も登場する。AmazonのKindleを使えば、無料で直ちに拝読できるから、是非拝読をお勧めしたい。Kindleフォーマットになっているから、すべての機能が使え、本を手にするより読みやすい。

政府=安倍晋三政権が憲法の精神、法律の従来からの解釈を勝手に破って黒川検事長の任期を半年延長し、稲田伸夫検事総長の後任に据え、検察まで安倍政権が支配しようとしていたのであるから、民主主義国家の根幹をなす三権分立制度を破壊しようとする意図があったことは明らかだ。それだけに、今回の事案は重大事案であり、法外な退職金(マスコミなどの調べでは7千万円程度)を受けられる「訓告」にとどめ、森雅子法務大臣も安倍首相に「辞職届け」を提出して辞任することもなく(辞職願を口頭で申し出て、遺留されたという形の茶番劇を演じた)、「辞任」という形で決着させようとしていることは、政府=安倍政権が問題の本質を探られないようにし、うやむやにするためであろう。

「安倍内閣、黒川検事長定年延長とかけてなんと解く。余人をもって代えがたく法律解釈を無視して違法に検事長の定年延長を決定。その心は?黒川検事長の得意技は麻雀賭博常習犯」。ウソと詐欺の常習犯である安倍首相のことだから、上記内容で決着させようとしているのも理解できる。

しかし、これは建前としては法治国家の体裁を取っている日本を、名実ともに人治国家に堕落させるものだ。要するに国民主権を否定した独裁国家にすることである。国家公務員法には「第八十二条 職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる」と定めている。これに基づいて人事院が定めた処罰規定は、「3 公務外非行関係」に「(9) 賭博ア 賭博をした職員は、減給又は戒告とする。イ 常習として賭博をした職員は、停職とする」と明記されている。

東京高検検事長職というのは検察庁の最高幹部であるから、役職の重さから見て上記を上回る処分を下すのが相当であり、黒川検事長(法務省官房長以降の役職)が検察庁の腐敗を極限まで悪化させた「実績」を考慮すれば、はっきり言って退職金も受給できない「懲戒免職」にするのが相当である。ただし、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課長時代の村木厚子「凛の会事件」のフロッピー改竄事件を受けた「検察庁改革」の妨害に始まり、陸山会事件を経て安倍政権の不祥事をもみ消したすべての事案を精査する必要があることは言うまでもない。とりあえず、懲戒処分にしておけばよい。

ところで、黒川検事長(当時)は内閣の意向を忖度する能力において「素晴らしい」能力をもっているとのことだが、実際に彼の能力を使ったのは菅義偉官房長官と言われる。これは、政界の裏の裏を知り尽くした平野貞夫元参議院(小沢氏の知恵袋)の登場する下記のデモクラシータイムズの鼎談に詳しい。ただ、安倍内閣にとって一番の功労があったのは菅官房長官であるが、昨年秋以降、安倍首相と菅官房長官の仲が疎遠になっているとのことだ。その代わりに、経済産業省出身の影の首相・今井尚哉首相補佐官に頼りきっているようだ。

上記対談では、①河井克行元法相・河井案里夫妻の公職選挙法違反の現段階での状況と今後の動向②「ゆ党」と自称する「日本維新の会」のIR(カジノを中心とした高級リゾート構想)問題をめぐる不正事件に検察庁がさらに切り込むべきことと同党の右翼的危険性③宗教団体を背景に持つ公明党の危険性(アベノマスクも創価学会関連企業が絡んでいる)と同党が日本維新の会に屈したこと④大正デモクラシー時代に宰相になった岩手県出身の原敬首相が「民主主義(民本主義)は軍部と検察によって破壊される」と見抜いていたこと⑤5・15事件後の挙国一致内閣で海軍出身だが穏健派とされていた斉藤実内閣が、右翼とつながりを有しナチズムやファシズム、共産主義など外来思想を危険視していた司法官僚・検事総長出身の平沼騏一郎の謀略による帝人事件で内閣総辞職に追い込まれたことを紹介、日本の検察が軍部と一体となって治安維持法などを制定、最終的には日本型ファシズムと太平洋戦争を引き起こしたこと⑤真正リベラリズム派の国会議員、識者の結集の必要性−などを紹介している。

なお、「リベラリズム」というのは日本の政界、マスコミなどで使われているので、本稿でも使用した。しかし、現在は新しい「リベラリズム」が求められている。理念としては、利己主義を絶対化する新自由主義=「自己責任」の大義名分の下に弱肉強食主義に徹する路線に完全対決する「共生共栄主義」だろうし、経済体制としては宇沢弘文の提唱した「社会的共通資本」(自然環境・社会インフラ・医療機関など社会保障制度)を経済の基礎・中核に据えた市場主義的資本主義経済体制がそれだろう。上記鼎談では、新型コロナウイルス禍は新自由主義に対する根本的批判として登場したと見ていた。ウイルスがそういう意思を持っていたかは問わないが、新自由主義ではコロナ禍は解決できない。サイト管理者もそう思う。

米国やシンガポールがそうであるように、経済社会を底辺で支える低所得層が新型コロナウイルス感染症にかかれば、新自由主義で「儲かっている」高所得者層(金持ち)も没落せざるを得なくなる。

それはともかくとして、①稲田伸夫検事総長率いる検察庁が広島地検の捜査を基に河井克行元法相と河井案里参院議員を逮捕するため、内閣衆参両院の議員運営委員会に逮捕許諾請求書を提出するか否か②662人の弁護士や学者が5月21日、「桜を見る会」の前夜祭に関連して、公職選挙法と政治資金規正法に違反した疑いで、首相と後援会幹部の計3人に対する告発状を東京地検に提出したが、東京地検がこれを正式に受理し、正式の捜査・立件・起訴に動くか否か−の2点によって、いまだに江戸時代の「岡っ引き」の段階にとどまっている日本の検察制度の今後が分かる。

それによって、日本の今後も占えるが、旧態依然たるままであることがはっきりすれば、真正リベラル派の結集が必要である。

※追記(2020年19時42分)
中国地方の中間新聞で広島市に本社のある中国新聞のサイトに2020/5/23投稿された「河井克行氏、100人に2000万円超 検察当局、買収立件へ最終調整」と題する記事によると、「昨年7月の参院選広島選挙区で初当選した自民党の河井案里氏(46)=参院広島=と夫の克行前法相(57)=衆院広島3区=が広島県内の地方議員らに現金を配ったとされる買収疑惑で検察当局が、克行氏が100人近くに総額で2千万円を超す現金を配ったとして公選法違反(買収)の疑いで立件する方向で最終調整に入ったことが22日、関係者への取材で分かった」という。

立件時期は「6月17日に閉会する国会のスケジュールもにらみ、立件時期を検討しているもようだ」という。自民党県連が推していた溝田溝手顕正元参院議員は岸田派だが、政治評論家によると安倍首相との不仲が伝えられている。新人の河井案里参院議員は菅義偉官房長官の息がかかっており、2人区の広島選挙区で2人当選させるというのは不可能。安倍−岸田ラインと安倍首相から冷たくされている菅官房長官グループの対立が抜き差しならぬ状態に陥っている。

東京高検の黒川検事長(当時)が意向を受けて動いていたのは菅官房長官。ただし、河井元法務相に破格の1億5000万円を配ったのは自民党本部で安倍総裁が知らなかったはずはない。安倍内閣が黒川氏の定年延長を強行した理由と推察される。安倍首相と菅義偉官房長官との仲が冷え込んでいる状況で、広島地検の立件にゴー・サインを出すか、稲田伸夫検事総長の決断が大きなカギを握る。

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